邦題:FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学。ノンバーバルコミュニケーションをビジネスの現場にどういかすかについて大雑把にまとめた本。著者の出世作である人の潜在意識を無意識の行動から探る体系本(What Every BODY is Saying)は相手の行動がいかなる形而上の意味を持つか分析するというどちらかというと受動的な立場に立脚して執筆されたものだったが、今回のものはどうすれば効果的なコミュニケーションがとれるかという能動的な立ち位置にたって叙述されている。
感想
非常に惜しい本。幾多のビジネス上の事例に対して解説を述べていく構成なので、目的や用途別に構成された体系でなく、散発的な内容が立て続けに流れ、いまいち把握しづらい。内容事例。傲慢な態度で世界金融危機の際の国庫からの資金援助引き出しで非難を浴びた航空会社経営陣、リンカーンのゲティスバーグ演説の絶妙、株屋が大暴落の際にどんな身体的動作を無意識に行うか、顧客が無意識に会社をどう認識するか、どのような立ち振る舞いを行えば適切な印象を与えられるのか。服装や表情、声や建物の外観、ポスターやイメージ、言葉の調子やペース、内容など目に見えぬ要素がいかに人の知覚、直感的な判断、無意識化の判断に影響を与えているか。邦題はほとんど本書の中身をあらわしていない。
ほぼタイトル詐欺。著者渾身の名作、What Every BODY is Sayingよりはるかに断片的なのが残念。本の主軸の目的な不明瞭な上、話が広がりすぎてまとまりに欠ける。人間の脳の性質やノンバーバルコミュニケーションが発生する原理などの前提の説明が薄く、前著を見ていない人には何を言っているのかわかりにくい内容だと思う。
人間が抱くイメージに強烈な印象を与える、初頭効果、ピグマリオン効果、ハロー効果、ミラーリング・ペーシング、心理学で良く見る言葉が立ち並ぶのみで、ノンバーバルコミュニケーションを専門でキャリアを終えたFBI捜査官である著者の強み、それらに対する深い洞察が一切いかされないていないもったいない心理学本。極上の刺身の鮮度をあえて落として、何故かソースをかけてしまったような感じ。歴史好きとして面白いと思ったのが、ロシアのピョートル大帝が西洋諸国の先進文化を導入する際、国の貴族に西洋風の服装を最優先して導入したこと。目に見える変化を見ることで、貴族から市民たちへ欧風の文化がいきわたっていった。これは中国のことわざでいう隗より始めよというやつで、中国春秋戦国時代の王者、武霊王が北方の民族の文化を導入するために、自ら異民族の服装を着た事例に似ているように思えた。その点東西古今、学ぶものは多い。
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