1982年から2001年まで累計13年間にわたって金正日の傍らで料理人を務めた藤本健二氏による著書。北朝鮮の中枢で働いてきた唯一無二の日本人が独裁者の実像と横顔を描き上げた。
独裁者の食生活
金正日の側近料理人として仕えた著者だけあって、提供したメニューが極めて具体的に記されている。簡単に言えば朝鮮料理と中華料理と日本料理と西洋料理のフルコース。山海の珍味、贅の限りを尽くした美食の極み。これは世界の最頂点を驀進する美食家と比較してもなお、存分に良いものを食していると思う。金正日はある意味では最強の食文化人のうちの一人だったのではないだろうか。
例をあげれば、雉の塩焼き(中華料理)、ふかひれスープ・ヤシの実仕立て(中華料理)、すっぽんの蒸し煮(中華料理)、大トロ握り(日本料理)、鰻のキャビアのせ握り(日本料理)、豚の丸焼き(中華料理)、伊勢海老の刺身(日本料理)。。。などなど。
藤本氏は寿司料理を主に担当していたようだが、週に1回は日本食を確実に食していたようで、松茸やトロ、キャビア、アジやサンマなど比較的臭いや味のわかりやすいものを好んでいたようだ。
一回の食事で20~30品がテーブルに満載され、登場する。古今東西の料理文化の贅の極みを尽くした饗宴だ。
備忘録
藤本氏が正日の前で寿司を握り終えた後、謝礼の入った封筒を正日が彼に向って放り投げた。藤本氏はそれを受け取らず一礼して去った。1週間後金正日から彼に対して直接の謝罪があり、その後チップの入った封筒を自ら手渡しするようになった。
北朝鮮では己の経営する店を与えられ、チップなども含めると月給200万を超すこともすくなくなかった。
ベンツを気前よくプレゼントしてくれた。
著者と日本人妻との離婚の際は金正日が慰謝料を負担した。
ロシア大使館前の高級アパートを与えられる。中央党の中でも副部長以上の職にあるものだけ入居が許される場所
金正日の別邸には映画館、移動式プール、ゴルフ場、射撃場、馬場、サウナ、ジェットスキーなどなどあらゆる娯楽が配されている。
金正日の宴会はコニャックを部下にのませ、飲んだ分だけ金を渡すような金の動きが多い金満宴会。日本の軍歌やポップミュージックもうたわれる。
寅さんや釣りバカ日誌、座頭市など日本映画のファン。アメリカ映画もクリントイーストウッド主演の作品などを好んで見る。007やボディーガードはSPたちに見せていた。
水上スキーで藤本氏と金正日がレースをした際、藤本氏に軍配があがったが、それから1か月後の再勝負の際、金正日は自分の水上バイクの排気量を格段にあげて挑んできた。結果金正日の勝ち。
あらゆる通信機器は国家に傍受されている。
オリンピック出場選手団が五輪で敗北した際は強制労働所送り。
負けず嫌い。人を良く褒める。施しを行う。人の話を聞く。粛清の恐怖は絶えず与え続ける。
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