概説

人間の心理がどのような進化上の淘汰を得て、成立してきたのか、その過程に着目するのが進化心理学である。例えば、リンゴの甘さについて、生化学者であれば果糖やショ糖の糖分子の形状が、舌にある味蕾の受容細胞の反応を引き起こすから。と答え、神経生物学者であれば、神経回路と、甘さの感覚が経験されるときに活性化する脳の部位を特定して、この答えを補足する。一方進化心理学の見地からそれを分析するなれば、人がリンゴを味わう際に甘く快い感覚を経験するのは、リンゴがミネラルやビタミンCといった必須栄養素を含んでいるから。私たちの遠い祖先にとって、食べて快い経験をすることが、そうした食物を食べるという動機づけの刺激となった。つまり、こうしてリンゴやほかの果実を食べるようになった私たちの祖先は生き残ったが、それらを食べなかった祖先は死に絶えた。といった結論になる。
個人的に思うが、人間の睾丸の大きさがゴリラよりはるかに大きい事や、不倫に対して女性と男性のミカタが違うこと、人間のみなにゆえ閉経が存在するかなど、そうした生物上の不思議な疑問に対し、ストーリーベースで回答できる思考のフレームとして使用できるので、この分野の生々しい人の性の知的好奇心を満たすには非常に役立つ考え方であると思う。
とにもかくにも有性生殖を行う我ら人類は、自己複製子を後世に残すために(結果として)利己的、利他的な行為を行い、生命としての営みを繰り広げてきた。その中ではぐくまれてきた人間の本性、心理というものが進化心理学の観点から赤裸々に語られる。この学問上の視点を持っていて損はないと思う。脳科学や歴史などにも紐づけて己の知見を広げられる。久々に買って良かったと思えた本。

進化心理学の鍵

自然淘汰の過程、”適応”に着目すること。適応とは生物学的な意味で子孫を残すことが出来ることを指す。
生命体は遺伝子を持ち、交配可能な種の間で遺伝子情報の存続をめぐり争い合う。資源には限度があり、子孫を残せる個体間の差が生じる。自然淘汰の結果、漸次的な変化が生まれ、変化をもたらす。その結果、新たな種が次第に形成され、適応が生じる。適応は進化心理学にとって鍵となる概念。

適応度の例

食べ物の好み:ヒト、とくに子供は、カロリーが高い、塩辛くて脂っこい食べ物と左党に強く惹かれる。旧石器医大にしっかり適応した味蕾を今も受け継いでいるため。陶磁器そういった食物は稀少だったから、それらを口にした時に得られる強い快感は、それらをもっと探し出すように動機づける有効な手段だった。

リンゴの甘さ:進化心理学者:人がリンゴを味わう際に甘く快い感覚を経験するのは、リンゴがミネラルやビタミンCといった必須栄養素を含んでいるからである。私たちの遠い祖先にとって、食べて快い経験をすることが、そうした食物を食べるという動機づけの刺激となった。つまり、こうしてリンゴやほかの果実を食べるようになった私たちの祖先は生き残ったが、それらを食べなかった祖先は死に絶えた。
生化学者:果糖やショ糖の糖分子の形状が、舌にある味蕾の受容細胞の反応を引き起こすから。
神経生物学者:神経回路と、甘さの感覚が経験されるときに活性化する脳の部位を特定して、この答えを補足する。

リンゴと猫:猫はリンゴをあまり好まない。体内でビタミンCを生成できるため。

インセスト回避:近親相姦を行った場合、子に遺伝的バグが生じる可能性が高まる。

人の性に着目する

人の性に進化の点からアプローチすることは、祖先の男女がとっていた、そして現代の男女がとっている配偶戦略を理解するのに役立つ。表面的には動物の配偶行動は、一夫一妻、一夫多妻、一妻多夫といった種に特有の配偶システムとして記述できる。しかし、自分の繁殖成功を最大にしようとする際に個体がとる戦略をみることでいっそう深い理解が得られる。
女性が男性の繁殖成功のカギを握っているという点で、ヒトは多くの哺乳類と似ている。

性淘汰

男性と女性の間には体の大きさに中程度の性的二型がある。これは祖先が女性への接近をめぐり男性同士競争していたことを反映している。ただし、ハーレムのような状態において進化した場合に予想されるよりもその差は小さい。睾丸の大きさも同様。おおよそ人間の先祖は一夫一妻制、一夫多妻制の中間で婚姻形態を継続してきたものと推察される。

男性と女性は子供への投資が異なり、配偶者選択に際して異なる基準を採用する。男性は女性の若さと魅力に高い価値を見出し、女性は男性よりも、配偶相手の地位と資源に高い価値を認める。嫉妬の感情も異なる。女性は男性よりも精神的な不倫と支援の打ち切りを心配し、男性は女性の肉体的な不倫を心配する。

心の病

精神障害は、特別の用途のために進化によって方続られた心的モジュールがうまく機能しないか、生まれながらに欠けている場合に起こる。
精神障害は、私たちのゲノムが現在んお環境に適応できないために生じる。
不安過剰と過敏は、私たちが不必要なリスクを確実に回避するための理にかなった適応である。
心は進化を通じてかつて有害だった刺激に容易に条件づけられるようにあらかじめ準備されている。
競争で勝ち目のない人に見られる抑うつは集団の安定を保証し、自殺に至る極度の抑うつは、血縁者内の遺伝子の生き残りを高める。

脳の大きさと進化

人は同じ体の大きさの霊長類から予測されるよりも大きな脳をもっている。
脳の大きさは、ここ400万に渡り、人の系統では劇的に大きくなった。
大きな脳の代謝の必要性、人の赤ん坊が未熟な状態で生まれなければならないこと、長期的な子供の世話をしなければならないことが、私たちの祖先に一夫一妻制の性的関係をとらせることになった。
ヒトの脳がこれほど大きくなった理由は、進化におけるなぞ。幾多の理由が挙げられている。
-多様な食物に関する認知能力の必要性
-社会的要因の役割
-性淘汰の結果
-脳と言語の共進化
-道具使用が刺激となった

感想

改めて人は霊長類の一種なのだなと思う。人は恋をし、その過程で懊悩し、やがて子をなし、次代を作る。そのプロセスやその過程で生じる心理的な苦悩はおそらくほかの地球上の生物に比べることが出来ないほど大きな知的、心理的苦悩を伴うものだと思うが、性淘汰の概念や、適応度の考え方など、人が生き物として選択してきたすえに出来上がった人間の心理、文化、脳の働きというものを、進化心理学のフィルタで通して眺めるのなら、人の生き物としての根本的な利己性、宗教的なものだとは思わないが、生物としての原罪のようなものすら感じる。一種のそうせざるおえない仕組み、心理の構造が組立ってしまっているからだ。どれほど不可解な行動を繁殖の中で人がとろうと、それは利己的な遺伝子が結果として自己複製子を残すために仕組んだ、進化上の戦略でしかない。
僕は人間としてのさがを、歓喜して受け止めるべきか、悲観して抱き込むべきなのか、よくわからない。

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本郷航

代表取締役社長/CEOG2株式会社
G2株式会社代表取締役社長。 司馬遼太郎が描いた偉人達、北方謙三らが描いた熱い英雄たちの物語に影響を受け、高校在学中から起業を志す。 大学在学中からさまざまなビジネスに手を出し、株式投資も並行して行う。その後海外向けの高級ガジェット専門店を立ち上げ、売却。 有田焼ギフト専門店(ジェイトピア)を創立。 あらゆる業界人が焼き物を決してネットで売ることはできないと断定する中、業界を代表するECプラットフォームを構築。新垣結衣、櫻井翔主演のドラマ等のスポンサーも。 ネット社会において、本来ブランド力や技術のあるサービス、物などのブランディング、マーケティングによる価値創出を理念とする。