近代心理学の父、ジグムント・フロイトの著作。ウィーン大学での一般向けの講義を上下2冊の本にまとめたもの。
無意識とリビドー
人の意思の大半は無意識下にある。それを解析するために夢と錯誤行為に着目すること。錯誤行為は意図した行動とは異なる行動を行ってしまうこと。言い間違え、失念。願望を抑圧すること、何かしようとする意図を抑え込むことでそれがゆがんだ形で噴出する。それが錯誤行為。フロイトは夢を無意識化にある願望の歪曲した代理物とした。そしてその願望は主にリビドー(性的衝動)に起因するという。幼児期にも肛門愛やエディプス・コンプレックス、抑圧した性行動が存在し、それらも何かしら潜在意識に影響を与えると。
この点大きな間違いがある。人間のあらゆる潜在意識が性に起因するほど単純にできているはずがない。意味することすべてが性の願望であるとは限らない。追い詰められた当人の現状が、ゆがんだ形で表象されている場合もある。何かに失敗するような夢、酔って携帯を失う行為の潜在的な理由がセックスという単純な理由にあるだろうか。
その反論からマズローは人間の願望を6段階にわけたし、ユングは欲望の方向性を内向型、外向型にわけてモデルをつくった。
歴史的一冊
とにもかくにもそうしてフロイトはなんでもかんでも性(リビドー、肛門愛、性的倒錯)に絡めて説明するので、途中から飽き飽きしてくる。人間が成長する過程でうけたトラウマや潜在的に抱えてきた願望に着目するのは目を向けるべき焦点として的を得ているとは思うが、その根源の大半がセックスに関するものであるほど人は単純にできていない。ただ、無意識というものの存在、そこに光をあてる観点は人類の根本を紐解くうえでの大きなエポックだろう。フロイドが言っているように、無意識の発見は、地動、進化論のに匹敵する大きな発見だ。彼の理論は古びてしまった部分も多い。だが、今でこそ脳科学の進展、実証事例を幾つも積み重ねた心理学のモデルがあるわけであって、彼の著作が歴史的な陳腐であるとは到底思えない。アリストテレスの科学論やマルクス・レーニンの思想は確かに今では機能していないかもしれない、いまだに歴史的な著作だ。彼のこの本も同様にそうだろう。
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