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概説
世界的に著名な文化人類学者、ジャレドダイヤモンドによる著書。
人と地球上にある他の生命体を決定的にわける差は何か。氏の分野横断的な知見から一定の回答を提示している。
地球上のあらゆる生命体はDNAを複製することによって種を存続させているが、人間もまた同様で特別な分子レベルの身体的機構を持っているわけではない。
おそらく系外惑星の生命体が、地球上の動物園の檻の中にまったく言葉をしゃべれない一人の人間を見つけた場合、いったい他の類人猿たちとどれほどの差を見つけるだろうか。毛の少ない霊長類とでも思うのではないだろうか。そもそも人間とチンパンジー間にある遺伝情報の差異は1.6%程度しかなく、我々だけが生物として崇高かつ特別な生き物だと断定できる決定的な証左はない。
しかし、一方で人は文化や言語をつくり、複雑な文明を創造してきた。チンパンジーやサナダムシにはできないことだ。何故我々は現代の地球を支配し、他の霊長類と異なる圧倒的なポジションを確立することができたのか。(数万年前には数百万人が」人類の総数)
そして、彼らと我々を隔てる大きな要素はなんなのだろうか。
著者:ジャレド・ダイヤモンド
人類学、地理学、文明史、進化生物学、鳥類学などなど幅広い分野を横断しつつ人類の文明の本質を解き明かす世界的研究者。著書「銃・病原菌・鉄」では新聞の印刷報道、文学、作曲に与えられる米国で最も権威ある賞であるピューリッツァー賞を受賞している。
人間が他の動物と違う理由
7万年前の人類の大躍進を支えた要素
1:二足直立歩行:おおよそ400万年前に二足歩行を確立。両手は自由に使えるようになり、道具を発明することが出来るようになった。
2:道具の使用:人間のほかにもキツツキフィンチ、エジプトハゲワシ、ラッコなど、動物にも食べ物をとらえたり、道具を使うよう進化した生き物がいる。だが、人類ほど道具に頼っている動物はほかにいない。
3:言語の使用:人間が言葉を話す能力とは、たくさんの構成要素と筋肉が正しく機能しているから。類人猿のように、限られた子音と母音しかだせなければ、人類の語彙はまったく限られたものになっていた。(ピジンからクレオールへ)
4:大きな脳
特異なライフサイクル
子供の扱い:たいていの動物の場合、一度の出産で一匹以上の子供を生み、自分の子供にたいして親らしい世話を焼かない。人の場合は父親も母親も子育てに携わっている。(成人するまでのコストが他の動物に比べ過大)
閉経の存在:ヒトの女性の場合、閉経後、これ以上子供が産めなくなったあとも何十年と生き続けることは珍しくない。他の哺乳類ではほとんど存在しない現象。(出産に歯止めをかけることで、むしろ母親は多くの子供を世に送り出すことが出来る)
性行動:類人猿は群れの仲間の前でも公然と交尾を行い、交尾は雌の妊娠が可能な時に限られる。一方、人間の場合、性行動はきわめてプライベートな営みであり、子供をもうけることだけが目的とは限らない。(隠された排卵と交尾が男性間の異性をめぐる争いを減速させた。また、パートナーとの緊密さを成り立たせ、家族の基礎になった。オスは子に対して自分の子供であるという確信を強めることもできた。)
https://goo.gl/nNxYwJ
特別な人間らしさ
人種の差異:地域間の美意識(性淘汰)による身体の形質上の進化。創始者効果。ミームによる選択の積み重ね。
加齢による死:身体の修理に伴う費用が関連。自然淘汰は、子供を多く残せる生物の比率を押し上げるように働き、そうすることで今度は生き残った子供が自分の子供を多く残していく。(300百歳生き、子を数百残した女性がいないのは、それだけ体の負担が大きいから。)
芸術性:アズマヤドリのように配偶者に対するアピールでなく、個人のアイデンティティーや集団のアイデンティティーを高めるために使用する。チンパンジーやゾウも絵を描くが、道具も余暇もないので書かない。
農業:農業の開始により劇的に人口が向上。定住することによる集積効果でイノベーションが劇的に進んだ。
農業の開始によって狩猟民族時代よりも栄養状態が悪化。(氷河期の頃古代ギリシャ、トルコに住んでいた狩猟民族の平均身長は男性が178cm、女性は168cm。農業が始まる紀元前4000年前には男性が160cm、女性は155cmに低下。)階級の分化。食料資源の貯蓄が可能となり、富の集中が一定の社会階層へ傾いていった。
自己損傷行動:アルコール、たばこ、薬物などの過剰摂取。ガゼルのストッティング、ゴクラクチョウの羽のハンディキャップ理論(ハンディを背負って生き抜いてきた雄こそ優秀という証)と同様。
孤独な生命:グリーンバンクの方程式。宇宙に無数の生命体の存在は予測されるが、同時期に連絡を取り合えるかどうかは限りなく可能性が低い。
世界の征服者
多様性の消失:巨大な文明が小文明とファーストコンタクトすることで、そこの文化、言語、伝統、芸術が消滅する。
征服者の文明:世界の文明が違いを伴いながら発達した理由。それは地理的な影響にある。文明を成り立たせている資源、とりわけ穀物化できる野性の植物や家畜化できる野生動物の分布は大陸ごとにことなる。こうした有用な動植物の種が、ある地域から別の地域へと容易に広がっていけるかどうかという点でも大陸間では異なっていた。(旧世界の穀物の育てやすさと新世界の穀物の育てにくさ、軍事や物流に有効な家畜の有無。)
ジェノサイド(大量虐殺):ある集団に属する人々を根絶やしにする。もしくは他種の大量絶滅。ユダヤ人虐殺、タスマニア人の虐殺、ポルポト政権下の知識人虐殺などなど。
一晩で振出しに戻る進歩
環境破壊:ニュージーランドにおけるモアの絶滅。イースター島の滅亡。ステラーカイギュウの虐殺。利己的のために生態系を破壊し、結果として自分たちのコミュニティの長期的な維持を困難とする場合がある。
利己的なミームとジーンの狭間で
生物は自己複製子の入れ物であり、それを残し、複製するために生きている。生物の利己的な行為も利他的な行為、共存も、そうした複製を前提とする利己的な遺伝子の選択淘汰によって行われている。それがリチャード・ドーキンスの伝説的な著書、利己的な遺伝子の主張だった。
ジャレドダイヤモンドのこの著書、いや一連の著書についても結局として同じようなことを言っているように思えてならない。人はそれぞれの環境に適応し、進化し、DNAを後世に伝えてきた。中途で途絶するものがあったとしても。。
人は遺伝子の乗り物であり、地球上で少なくとも最も成功した生き物の一種ではある。これから我々はどこへ向かうのか、それは淘汰圧と我々のミーム、利己的な遺伝子が導いていくことだろう。
おそらくそれは、人がタンパク質を前提にした完全な有機物であらなければならないという前提を超えていく。
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