日本酒の中でも最高級の醸造方法で造られる酒が純米大吟醸。その純米大吟醸のカテゴリーの中で日本一の売り上げを誇るのが「獺祭」。杜氏による経験や勘に頼った酒造りが業界の標準である中、データ管理と数値化、分析による化学的な酒造りを実現した。2014年のオバマ大統領訪日の際、安倍首相より贈答品の一つとして選ばれたことも記憶に新しい。
本の内容
今や日本酒好きには知らぬ者のいない獺祭。その酒を創り上げ世界に売り続けたのが経営者である桜井博志氏。彼は市場が3分の1に激減する中、なぜ40倍もの売上をつくることができたのか?その内側に迫った本。
特に興味深かった点
1:杜氏がいない
社員が杜氏をのかわりを行う。経験と勘による杜氏の仕事を、数値やデータをベースにした酒造りに置き換えた。
※杜氏は、酒造りを行う職人集団の最高製造責任者。冬場になると蔵元に杜氏を中心とした職人集団が集まり、酒を仕込む。杜氏のとの契約は1年ごと。酒蔵の社長と当時の関係はプロ野球に例えれば、球団オーナーと監督のようなもの。現場の指揮権は当時にあり、経営者は口を出さないのが一般的。杜氏は経験と勘によって酒を仕込むため、品質が安定しない。
2:品質を保ちつつ、大量生産を両立
12階建ての本蔵を建造。建物のスケールは大きいが、仕込み用のタンクをあえて管理しやすい小さいものに。その結果、酒の味と質を社員がコントロールしやすい環境を実現。
3:四季醸造(通年醸造)が可能
温度管理が重要な酒造りは冬場に行われるのが伝統。一方獺祭は室温を一定にすることで365日酒造りを可能にした。冬季にしかできない杜氏たちの仕込みは、経験と勘に過度に依存していたが、一年醸造によって1社員ごとの仕込み量が増え、社員が積む経験値が格段に向上した。
4:酒の”うまい”をデジタル化した。
酒造りのあらゆるデータを収集し、解析する分析室を配置。各工程の温度や湿度、アルコール度数などさまざまなデータを一括管理。
思ったこと
企業の目的を達成するため、すがすがしいほどブランディングとイノベーションに徹している。保守的な業界の標準に縛られてはいけないということを強く胸に刻める一冊。イノベーションについては上段の興味深い点を参照。常にゼロベースで目的達成の手段を考えないと大切なことを見落とす。
あるべき酒の姿を、お客様が幸せになる酒造りと定義。「酔うための酒、売るための酒を造らない」という原則。
ブランディング:
1:フランスのカリスマシェフであり、世界最多のミシュランの星を保持しているジョエル・ロブションと共同で獺祭が飲めるレストランバー、ショップ、カフェなどで構成される複合店舗の出店を予定、パリやニューヨークなど20か国以上の国々で獺祭を販売
2:2014年、オバマ大統領が来日した際には、安倍晋三首相が獺祭をプレゼントとしてオバマ大統領に贈る。
3:無印良品を参考に、パッケージやラベルを洗練。田舎風の野暮ったいイメージを徹底して排除。
4:日本一磨いた精米歩合23パーセントの大吟醸を販売し、メディアから注目を浴びるきっかけをつくる。
5:2015年、東京の一等地、銀座の隣の京橋に「獺祭Bar23」をオープン
ミッションを達成するために会社があることを忘れてはいけないな。
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