Contents
どんな本?
人間の性(セクシュアリティ)がどのようにして現在のようなものになったものかを考察した本。女性の閉経や人間社会における男性の役割のほか、人目を避けてセックスすること、授乳期間がはじまる以前においてさえ女性の乳房が発達すること、などなど、どうしてそう進化したのか説明の難しい不可解で答えのない疑問に向き合う。
著者のジャレド・ダイアモンドって誰?
人類学、地理学、文明史、進化生物学、鳥類学などなど幅広い分野を横断しつつ人類の文明の本質を解き明かす世界的研究者。著書「銃・病原菌・鉄」では新聞の印刷報道、文学、作曲に与えられる米国で最も権威ある賞であるピューリッツァー賞を受賞している。
人間のセクシュアリティの特異な点
1:ほとんどのヒトの社会におけるほとんどの男女は、長期にわたってペア関係を維持し、社会の他のメンバーはその関係を相互義務をともなった契約とみなす。夫婦は繰り返し性交するが、セックスの相手はおもに、もしくは必ずその配偶者である。
2:夫婦は性的なパートナーであるばかりでなく、両者のあいだに生まれた子供を共同で育てるパートナーでもある。特筆すべき点は、男性も女性も同様、ごく普通に子供の世話をする。
3:男性と女性は夫婦になるが、排他的なテリトリーに二人きりで暮らしたり、ほかの夫婦からテリトリーを守ったりはしない。そうではなくて、社会の一員として生活し、ほかの夫婦と経済的に協力し合い、テリトリーを共有し合う。
4:夫婦はふつう二人きりで内密に性交し、ほかの人間がその場にいることをひどく嫌がる。
5:ヒトの場合、排卵は隠されており、それを宣伝するようなシグナルは現れない。すなわち、性交のパートナーにとっても、また女性自身にとっても、排卵日前後の受胎可能な短い時期を検知するのは困難である。また女性が男性を受け入れる受容器は受胎可能なときだけではなく、月経サイクルのほとんど、あるいは全範囲におよぶ。そのためヒトのセックスはたいていの場合、妊娠するには不適切な時期に行われている。つまり、ヒトは受精のためではなく、もっぱら楽しむために成功する。
6:40~50代を過ぎた女性はだれもが閉経を迎え、繁殖能力が完全に停止する。一般に、男性ではこうした現象は起こらない。人によってはいろいろな年代で性的能力に関する様々な問題を抱えるかもしれないが、男性がある世代に集中して不妊になったり、みながいっせいに能力を失ったりすることはない。
その理由
1:人間の子供の子育てには高い投資が必要。
体内受精の場合、母親は卵子をつくって受精させ得るまでに要した投資に加え、そのあと胚にもさらに投資しなければならない。
1ミリリットルの精液をたやすく製造できる男性と女性の間の大きな差がある。女性は容易に育児放棄が出来ない。
2:遺伝子を残す可能性が高まるため。
人間には特異な性質である閉経があるため、年々その受胎の確率は下がり、いずれは0となる。また、受胎中に新たな繁殖行為をすることは出来なず、産み出すにいたるまで多大な投資コストがかかる。そのため子供を産んだ場合、近くにいて守り育てるほうが遺伝子を残す可能性が高くなる。
3:自分が親であるという確信
受精卵や胚を育てるには多大な労力がかかる。そのため自分の子供かどうかをはっきりさせる必要がある。
体内受精を行うことで卵の取り違え、意図的な入れ替え(托卵)を行われることなく安心して子育てが出来る。
感想
調べ物をしていたところ、面白いホームページに行き当たった。各生物の平均的な陰茎の大きさを掲載しているページなのだが、ゴリラの大きさは約3cmであり、人種はわからないが、ヒトの平均は15cmとのことらしい。
ゴリラ霊長目ヒト科ゴリラ属(Gorilla)
体長オス170 – 180センチメートル
体重オス150 – 180キログラム
握力推定500kg3cm
ヒト
ヒト属(ホモ・サピエンス:Homo sapiens)
体長160 – 180センチメートル
体重50 – 90キログラム15cm
こうした属性を特徴として述べるのは実にたやすい。しかし、何故そうなっているのか、差が生まれたのかを証明するのは幾多も連なった知恵の輪を解くより難しいだろう。
ジャレド・ダイヤモンドはそうした人間の性が特異に進化した原因について一定の仮説を示した。それが絶対に正しいかどうかは議論の余地はある。
男はなんの役にたつか?という章については全面的に納得できなかった。アチェ族という狩猟民族の男性たちがろくに獲物をとれもしないのに狩りばかりして、女性や子供の面倒を見ないという狭い事例の話を男の役立たずさに敷衍しているのだが、決してそんなことはないと思う。そもそも男の性欲がなければここまで文明が発達、イノベーションしていくことはなかった。それがたとえ”繁殖の役に立たなくとも”人類全体での生存率や繁殖率は向上してきたのだ。だからこそ人類はアフリカの小さな霊長類集団から、70億の個体数を数える地球上の生態系の頂点に君臨した。
個人的に思ったこと。
ハーレムを築く動物たちや、一妻多夫制のコミュニティを築く鳥類、乱婚型の霊長類や発情がなくとも交尾をするボノボなど、環境に適応し、進化してきた様々な生物がいる。ただ各々特徴ある性活動を見ても、一つ共通する点がある。それは種の遺伝子が存続しやすい方向でコミュニティを保っているということ。個体として利己的な行為も、全体としては種を存続させるための利他となっていたり、個体として利他的な行為が結局は種全体の遺伝子を維持するよううまくシステムが出来ている。
そして、それを見ていて思うのが動物の生存戦略はとても面白いということ!環境に適応するため無意識に生命が行っている行動の数々、戦略は彼らの下手な経営書を読むよりずっとエキサイティングだ。
一妻多夫制の鳥類であるノスリやタマシギ、霊長類のチンパンジーやボノボの多夫多妻制。遺伝子を残すための最適戦略をとっている。動物や昆虫たちの戦略をまた別に学びたくなった。
この本自体そもそも下世話な話ではまったくなく、人間の性についての漠然とした研究、仮説発表の場といったところなので、知的好奇心を満たすには良いが、戦国時代の孫子のような必読の教養書というわけでもない。ただし近視眼的な物のミカタに危機感を覚えたら、頭を柔らかくするためにも読んでおく価値はあると思う。
More from my site
最新記事 by 本郷航 (全て見る)
- 伝説のバンド、ビートルズは何故解散したのか ザ・ビートルズ 解散の真実 - 2018年9月16日
- 項羽と劉邦 - 2018年9月9日
- 交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック - 2018年7月16日
- 生きるのが面倒くさい人 回避性パーソナリティ障害 - 2018年7月16日
- StrategicMind 2014年新装版 - 2018年7月15日