概説

元アルコール依存症のコラムニスト、小田嶋隆によるアルコールに関しての著作。

鋭利なエピソードがほしい

本人がアルコール中毒になり、治療するまでの過程。酒についての私見が多々見られる。正直途中で見る気がなくなってしまった。というのも、自分はアルコール依存症患者の体験記というものに現実離れした無頼漢伝説を無意識に求めてしまっているようで、氏のエピソードは脳の記憶海馬に焼き付くほど強烈な体験がない。断酒による睡眠不足で幻聴にあったことや、自宅のクローゼットに排泄したり、そのくらいのことだ。死んでいったアル中の著名人、特に文豪たちのエピソードはすさまじい。酒に溺れるどころか押し寄せる酒の波でサーフィンでもやっているかのようなすがすがしさがあった。
心理学や医学とも関係のない私見。鋭い舌鋒、表現力ではあるのだが、実際科学的にはどうなのか?となってしまった。どうも俺はコラムというものが苦手なのかもしれないな。

興味深い点

一つ記憶に焼き付いたのが、アルコール依存症になる人間というのは酒を飲むことでアル中になっていくということ。つまり、あの時つらかったから飲んだ、だから酒に頼るようになった、あの時仕事がうまくいかなかったらやけをおこして、酒を飲むと創造力がわくから仕事にプラスになる。。。など、その理由付けの大半に意味はなく。結局酒を飲むようになってそれが習慣化したらいつの間にかアルコールなしではいられなくなったのではないかということ。

何か振り返りたくないことに対して理由をつけて言い訳するのは心理学でいう回避行動の一種だ。そうして自分自身が傷つかないように心を守っている。そしてアルコール中毒患者の特徴は自身がアル中であることを”否認”することにある。これもまた興味深い。
酒をいくら呑んでも何かに理由付けをしてアル中であることを否定する。結局これって酒に対する依存であり、物事や自分の内面と向き合うことへの逃避なんだよな。
それを繰り返すうちに、脳神経が酒の快楽物質にハックされ、神経回路に新たな報酬系が形成される。酒を飲むと調子がいい、酒を飲まないと調子が悪くなる回路。ハリガネ虫という虫がいたが、酒はそれに似ている。バッタの腹中に寄生し、栄養を奪う。バッタ本体が死にそうになると、水辺にいくよう脳に指令を出し、そこで息絶えたバッタの腹腔から勢いよく飛び出し、新たな宿主を探す。

酒も似たところがある。酒は飲むものであって飲まれるものではない。所詮ツールだ。その点この系統の本は改めてその認識を強めてくれるのが良い。

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本郷航

代表取締役社長/CEOG2株式会社
G2株式会社代表取締役社長。 司馬遼太郎が描いた偉人達、北方謙三らが描いた熱い英雄たちの物語に影響を受け、高校在学中から起業を志す。 大学在学中からさまざまなビジネスに手を出し、株式投資も並行して行う。その後海外向けの高級ガジェット専門店を立ち上げ、売却。 有田焼ギフト専門店(ジェイトピア)を創立。 あらゆる業界人が焼き物を決してネットで売ることはできないと断定する中、業界を代表するECプラットフォームを構築。新垣結衣、櫻井翔主演のドラマ等のスポンサーも。 ネット社会において、本来ブランド力や技術のあるサービス、物などのブランディング、マーケティングによる価値創出を理念とする。