ギュスターヴ・ル・ボンとは
フランスの社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボン(Gustave Le Bon, 1841-1931)は、フランス革命の虐殺行為やナポレオン・ボナパルトの侵略戦争に賛同・協力した“群衆”を研究対象にして、心理学的視点・方法から『群衆の心理・行動の特徴』を明らかにしようとした。一人の個人でいる時には決してしないような非合理的・衝動的な行動を、群衆(集団)になるとしてしまうのはなぜなのかを、ル・ボンはフランス革命やナポレオン戦争、ローマ帝国の政治などを題材にして歴史的・実証的に分析している。
群集心理とは
19世紀末、産業革命、フランス革命など諸要因から民主主義が進展し、絶対の王政、君主制ではなく、群集が国家を動かす時代が到来。ギュスターヴ・ル・ボンは、心理学、社会学の立場から群集の心理を紐解いた。大衆が個人と異なるどのように物をとらえ、考えているのか、その特徴や実態を数々の事例をあげて説明した社会学の基礎となる古典的名著。
群集の特徴
本著の要点を仮に3つに絞るのであれば下記になるのではないだろうか。
1:感情的、動揺しやすく、衝動的で無責任である。
群衆中の個人は、単に大勢のなかにいるという事実だけで、一種の不可抗力的な力を感ずるようになる。これがために本能のままに任せることがある。単独のときならば、当然それを抑えたでもあろうに。その群集に名目がなく、したがって責任のないときには、常に個人を抑制する責任観念が完全に消滅してしまうだけに、人格や理性を失い、本能に負けてしまうのである。有能な個人でさえ大衆の一人となった時は意識が集団の中に埋没し、無能な一員と化す。
2:感情や行為が感染する。
恨み、憎しみ、恩、いつくしみ。。。群集においては、どんな感情もどんな行為も感染しやすい。個人が集団の利益のためには自身の利益をも実に無造作に犠牲にしてしまうほど、感染しやすい。これこそは、個人の本性に反する傾向なのであって、人が群集の一員となるときでなければ、ほとんど現し得ない傾向である。集団の感情的な空気や感覚が同調圧力を生み、人は集団の霧の中へ溶け込んでしまう。
3:群集の暗示を受けやすく、反復や断言により、物事を軽々しく信じる。
どんなに不偏不党と想像されるものであっても、多くの場合、何かを期待して注意の集中状態にあるために、暗示にはかかりやすい。一度暗示が与えられると、それは感染によって、ただちにあらゆる頭脳に刻み込まれ、即座に感情の転換を起こす。物事を反復する暗示にも弱く、見せかけの類似や連関、心象で軽々しく判断を流される。
要するに何なのか
1895年に書かれた本であるにも関わらず、最近書かれた本ではないかと疑ってしまうほど示唆に富んでいる。大衆は論理でなく感情に走る。暗示によって動く、感情は感染していく。。。群集というものの性質は当時も今も全く同じだ。
この時代を少し見渡すだけでも、事例が浮かび上がる。
政治:政治候補者たちはポピュリズムに走り、人気取りのために国民に偽りの笑顔を見せ、敵でもない敵をつくったり、政局や政策の論点をまったく関係のないものにうつす。国民はメディアの偏向報道に流され、政治家の政策でなく箸の上げおろしのようなくだらないことにのみ着目して政治家を罷免し、名が知れた好感度タレントのような素人へ政治家への扉を開く。
経済:少子高齢化、経済規模縮小、家計の負担増、年収減少、日本の将来は絶対的不安であるという暗示にかかり景気を回復させるカギである消費が進まずインフレ政策が進まない。たんなる自衛でなく日本が持てる資産や可能性に目を向ける投資とマインドが、長期的な繁栄に本来必要であるにも関わらず。
マーケティング:一度売れたものが絶対の定番となり、伝染し定着していく。大手メーカーがつくる柿の種を知っている人はいても、元祖柿の種を知る人は少ない。
人は集団に埋没した時に一気に無能と化す。人に判断を預けてはいないか、感情や心象、偏見でものを見ていないのか、大いに考えるきっかけになる。
現代社会に警鐘を鳴らすとともに、今世紀の為政者たちに示唆を与える名著だろう。
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