どんな本なの?

1928年にアーサー・ポンソンビーが上梓した「戦時の嘘」。プロパガンダがいかに民衆を戦争に巻き込んでいくかを分析した名著がある。
その本を下敷きに、現代でも同様のプロパガンダが行われていると現代の事例を組み入れて注釈した本がこちら。
ポンソンビーの戦時の嘘が孫子だとしたら、アンヌ・モレリの戦争プロパガンダ10の法則は孫子注釈のようなものだ。

アンヌ・モレリって誰

歴史学者。1948年ベルギー生まれ、ブリュッセル自由大学歴史批判学教授。歴史批評を近代メディアに適用し、世論を特定の方向に誘導するからくりを体系的に分析してきた。

戦争プロパガンダ10の法則

古今東西、よほどの大きな戦争というものは、なんらかの”大義名分”によって名目上は発生している。
では一体どのようなプロパガンダでその名分はつくられるのか、本書ではそれに10の法則があると分析している。

1:われわれは戦争をしたくはない
2:しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
3:敵の指導者は悪魔のような人間だ
4:われわれは領土や派遣のためではなく、偉大な使命のために戦う
5:われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる
6:敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
7::われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
8:芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
9:われわれの大義は神聖なものである
10:この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である

カンタンに言えば利害の絡んだ侵略を行う際は、国民たちにあたかも大義ある戦いであるようにプロパガンダし、自発的に賛同するように仕向けるということ。

まず敵と味方という単純な二元論に持っていき、悪魔のような相手が自国へ侵略の魔手を伸ばそうとする中、我らは世界の秩序を守るために戦わねばならないという名目の形をつくる。その上で各界の権威に賛同させ、メディアも利用し方向付けを行い、反論するものを非国民としていく。

これはナチスドイツのポーランド侵攻の際にも使われた方法だったはずだ。現地でドイツ人が不当に虐げられ、死者が出ていると。※実際虐殺行為は行われていなかったが、センセーショナルな写真をねつ造することで世論をあおった。
それだけではない。第一次世界大戦期はドイツ兵に手を切断された100人の子供がいたというでたらめの証言を煽動に用いたり、湾岸戦争ではイラク人が保育器に入った子供を引きずり出すなど架空の話をでっち上げ、絶対悪をつくりあげた。

面白いのが国家が演じてきたそのような事例を見る限り、上記10個の法則の材料に、真実を使う必要がまったくないということだ。言い換えればねつ造によって成り立つことも可能であると。
詳しくはいわないが、某国との歴史的摩擦に心当たりがある人も中にはいるのではないか。

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本郷航

代表取締役社長/CEOG2株式会社
G2株式会社代表取締役社長。 司馬遼太郎が描いた偉人達、北方謙三らが描いた熱い英雄たちの物語に影響を受け、高校在学中から起業を志す。 大学在学中からさまざまなビジネスに手を出し、株式投資も並行して行う。その後海外向けの高級ガジェット専門店を立ち上げ、売却。 有田焼ギフト専門店(ジェイトピア)を創立。 あらゆる業界人が焼き物を決してネットで売ることはできないと断定する中、業界を代表するECプラットフォームを構築。新垣結衣、櫻井翔主演のドラマ等のスポンサーも。 ネット社会において、本来ブランド力や技術のあるサービス、物などのブランディング、マーケティングによる価値創出を理念とする。