
本書はクレイトン・クリステンセンが考案したマーケティング理論の一種、ジョブ理論の解説書。
著者は大企業を打ち倒す破壊的イノベーションがメカニズムを解明した世界的なイノベーション学の大家として知られる。ジョブ理論は簡単に言えば彼による破壊的イノベーションを成功させるためのマーケティング理論といって差し支えない。
破壊的イノベーションの要点
〇優良企業が新興企業に負けることもある
〇優良企業は性能向上や改善型の技術開発は得意だが破壊的技術は苦手
〇過剰な性能はかえって顧客に敬遠され、いずれ破壊される
〇顧客が求めているのは必要十分な解決策
ジョブ理論の要点
〇顧客にとって必要十分とは、ジョブを片付けること
〇ジョブとはある特定の状況で人が成し遂げたい進歩
〇ジョブは人の置かれた状況に依存する
〇顧客の状況を把握し、ジョブを見つけることでイノベーションは起こせる
感想
破壊的イノベーションが起こると、旧来の業界の競争の枠組みが崩壊し、優良企業とされてきた大企業が倒されてしまう。その前提には優良企業が顧客が必要とする性能以上の製品やサービスを生み出すことにある。そこでその性能以上の製品に高額な価格を払うことに飽きた下位市場の顧客が宙に浮き、破壊的イノベーションがそこに生じる。通常の製品より性能、価格が低いものを流通させる素地が生まれる。やがて破壊的イノベーションを起こした企業は、徐々に商品の品質を向上させ、優良企業を破壊する。
真空管ラジオメーカーがなぜトランジスタラジオを発明したソニーに敗れたのか、何故フォードはT型フォードを発明することで、当時一般的だった馬車での移動を破壊することができたのか。なぜスマートフォンの普及によりパソコンの利用率が下がり、市場が縮小しているのか。彼の理論のフィルタで説明することが出来る。イノベーション学のアインシュタインといってもいいのではないか。
ジョブ理論の原典は380P近くあるが、この副読本はグラフ多め、文字が大きめに描かれた135Pの内容なので、ぱっと見で理論を把握したい人には好著だと思う。
定量的なマーケティング調査の限界と、相関関係と因果関係を取り違えが生む、胃痛患者に風邪薬を渡すがごときマーケティング施策の数々に、銃口を突き付ける考え方がジョブ理論にあたる。かつてセオドア・レビットが顧客はドリルを買うのでなく、ドリルの穴を買うのだという名言を残していたが、その洞察を理論化したのがジョブ理論。
なんだか思考のいとがこんがらがり、解きほぐしようがないほど絡んでしまった時に思い返したい。
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